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中小食品メーカーがDXで失敗しないための7つのポイント(後編)
──1つ目の成功を、2つ目・3つ目につなげる
みなさん、こんにちは。ジャパンフードカンパニーの南口です。
7月号で「中小食品メーカーがDXで失敗しないための7つのポイント」の前編として、4つをお届けしました。今回はその後編です。
まず、前編の4つを振り返ります。
1. トップダウンで号令をかける
2. 現場の小さな「面倒」から手をつける
3. まず既存システムから始める
4. 浮いた時間の使い道を先に決める
前編のポイント2で、「一つの面倒が解消されると、現場から必ず声が上がる」とお伝えしました。「次は○○もどうにかならないか」という声です。ここまでは、多くの会社で実際に起こります。
実際に、そうなった会社があります。洋菓子の製造販売を手がけるA社が最初に手をつけたのは、勤怠の集計でした。勤怠システムから出したデータをExcelに転記し、早出や祝日早出といった複雑なルールを確認しながら計算する。月初に毎月6時間が固定で消え、集計ミスも月に数件出ていました。これが、データを渡すだけで終わる仕組みに変わり、月6時間は10分に、ミスはほぼゼロになりました。
大事なのは、その後です。担当の方は、勤怠のほかに製造管理と卸の管理も兼ねていました。「楽になる」を自分の体で確かめた結果、「次はこれも」「実はこれも」と、別の部門の業務を自分から持ってくるようになったのです。
なお、仕組みをつくっている間は、精度を確かめるために従来のやり方と並行して動かします。一時的には、むしろ手間が増えます。それでも走り切れたのは、「ここを越えれば今の苦労から解放される」という見通しを、担当の方と最初に共有できていたからだと思っています。
後編の3つは、この「1つ目のあと」を偶然任せにしないためのポイントです。
5. 成果を見える化する
6. 成功を横展開する
7. 社内だけで抱え込まない
ポイント5:成果を見える化する
効率化が進んだ会社に「どれくらい効果が出ましたか」と聞くと、たいてい「月に10時間ほど減りました」という答えが返ってきます。
間違いではありません。ただ、時間は現場の言葉であって、投資判断の言葉ではありません。時間で報告している限り、DXが経営会議の議題に上がることはありません。
効果は、可能な限り金額で測ってください。難しい計算は要りません。基準値を決めて、掛け算するだけです。
基準値の決め方(最低限、ここだけは持っておく)
・アルバイト・パートが担っている業務:時給1,500〜2,000円
・正社員が担っている業務:時給2,500〜3,000円
換算の例
・1日30分の効率化=月22日稼働で月11時間、年間132時間
・アルバイト業務なら、年間20〜26万円の削減
・正社員業務なら、年間33〜40万円の削減
5月号では時給1,500〜2,000円で試算しましたが、業務の担い手ごとに基準値を分けたほうが、実態に近い数字が出ます。
報告するときは、「経理の作業を1日30分減らした」ではなく、「年間33万円の削減効果」。DXが経営の課題である以上、経営会議に乗せるべきなのは削減効果としての金額です。
そして、この数字は報告する相手で分けてください。
・経営者への報告は、金額で伝える。次にどこへ投資するかを決める材料になります
・現場への報告は、変化で伝える。「集計ミスがゼロになった」「月初に定時で帰れるようになった」のほうが、次の改善に向かう理由になります
なお、すべての改善が数字になるわけではありません。数字が出しにくいものは、定性的な変化で構いません。大事なのは、「変わった」ことが誰の目にも見える状態をつくることです。Before/Afterを1枚の紙にまとめて貼り出す。それだけでも十分に機能します。
ポイント6:成功を横展開する
1つの部門で効率化が成功したら、必ず他部門にも情報共有しましょう。
横展開は、自然に広がってくれるのが理想です。ただ、それを期待せずに、意図的に仕掛けてください。どんな部門にも、外の情報を自分ゴト化して「うちだったら、もしかしたら」とヒントにするメンバーがいます。その1人に届けば、2つ目が動き出します。冒頭のA社で起きたのも、これでした。
とはいえ、共有した先でよく返ってくるのが「うちの業務は特殊だから」という声です。
表面に見えている業務は、部門ごとにまったく違います。ただ、中身の手順まで見ていくと、似た形をしていることがよくあります。私たちが支援してきた効率化事例でも、次のような型はよく出てきます。
・紙やPDFで届く → 人が目で見て転記する → 台帳にまとめる
・同じ情報を、複数の帳票やシステムに二重入力している
・締め日の前に、担当者が手作業で数字を集めて回っている
請求書処理、勤怠集計、領収書整理、出荷指示書の作成。表に出ている名前は違っても、皮を剥くと似た作業が残っています。
ですから、横展開で配るべきものはツールではありません。「型」です。
「経理で入れたツールを、他の部門でも使ってください」では動きません。代わりに、こう聞いてください。
「うちの会社で、紙やPDFを目で見て転記している作業は、他にどこにありますか」
この問いなら、どの部門も自分の仕事として考えられます。
もう1つ、意外に効くのが評価の設計です。効率化を実現した担当者が、社内で「仕事が減って楽になった人」と見られる会社では、2人目が出てきません。「自分の仕事を減らした人が評価される」と、経営者がはっきり言葉にする。横展開が進むかどうかは、案外このひと言で決まります。
ポイント7:社内だけで抱え込まない
3月号でお伝えしたとおり、中小企業のDXを阻む最大の要因は、「技術的に作れる人」と「現場で本当に困っている人」が出会っていないことです。
社内だけで進めると、ここで必ず壁にぶつかります。現場は、何がデジタルで解決できるのかを知りません。知らないものは、検索することもできません。
「これは人がやるしかない」と全員が思い込んでいる作業ほど、実はあっさり自動化できます。「え、それも自動化できるんですか?」──実際にお話を聞いた担当者の、ほぼ全員が口にする言葉です。
そこでおすすめしたいのが、「業務の棚卸し会議」です。
社内でも外部でも構いません。DXの実例に詳しい人を1人入れて、次の3つを出し合う場をつくってください。
・社内のここが面倒だ、と感じていること
・この作業がなくなれば早い、と思っていること
・全員が持っている、毎日・毎週のルーティン作業
弊社でも初回のご面談でこれを行いますが、ほぼ例外なく「これも出来るんですね」という反応が出ます。そこから、DXは前向きに動き始めます。
そしてこれは、現場から声が上がるのを待つボトムアップではありません。場を設定し、人を集め、外部の目を入れると決める。DXを推進するために、経営者がトップダウンでやるべき仕事の1つです。前編のポイント1でお伝えした「号令をかける」の、最も具体的な形がこれにあたります。
もう1つ、抱え込みには見落とされがちなリスクがあります。属人化の再発です。
4月号で属人化リスクの棚卸しについて書きました。同じことが、DXの推進役にも起こります。「社内で一番ITに詳しい人」にすべてを集約すると、その人がいなくなった瞬間に仕組みが止まります。作った本人にしか直せないツールは、新しい属人化そのものです。
7つのポイント(総まとめ)
前編=1つ目を動かすまで
1. トップダウンで号令をかける ── 部門間の対立を裁けるのも、経営者だけ
2. 現場の小さな「面倒」から手をつける ── 小さな体験が現場を動かす原動力になる
3. まず既存システムから始める ── 多額の投資より先に「そもそも必要か?」を問う
4. 浮いた時間の使い道を先に決める ── 効率化は「次に何をするか」とセットで成果になる
後編=1つ目のあとを止めないために
5. 成果を見える化する ── 時間ではなく金額で語ると、経営の議題になる
6. 成功を横展開する ── 配るのはツールではなく「困りごとの型」
7. 社内だけで抱え込まない ── 棚卸しの会議に、実例を知る人を入れる
改めて7つを眺めると、技術の話が1つも出てきません。どのツールを使うか、どんなシステムを入れるかは、実のところDXの成否をほとんど左右しないというのが、私の実感です。
分かれ目にあるのは、経営者が号令をかけたか。小さく始めたか。成果を金額で見えるようにしたか。外に開いたか。つまり、すべて経営と組織の話です。
そして6月号でお伝えしたとおり、効率化はゴールではなく通過点です。生まれた時間を、製造・営業・商品開発といった「攻め」に再投資して、はじめて経営は前に進みます。
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